かんざらしの魅力を各地へ 島原湧水と地元の素材を追求|玉乃舎
かつては地元・長崎県島原でしか味わえなかった伝統的なスイーツ『かんざらし』。その魅力を全国の人々へ届けるために、お土産として販売を始めたのが玉乃舎です。
島原で育った代表の稲田さんは、地元を離れ多くの人から島原についての印象を聞く中で『かんざらし』の
素晴らしさを再認識。日持ちがしない『かんざらし』をお土産として形にする決意をしました。
今ではその思いが形となり、その美味しさを通じて島原の魅力も全国に広がっています。
長崎県の南東部にある島原市(しまばらし)は、雲仙岳がそびえ有明海に囲まれた自然豊かな場所です。雲仙山系の伏流水が60箇所以上から湧き出ており、島原湧水群と呼ばれ全国名水百選にも選ばれています。
その良質のおいしい湧き水を使い、昔から島原で親しまれてきた伝統菓子『かんざらし』。なかでも大正4年に入江ギンさんがはじめた元祖かんざらしの店『銀水』は、県外からも多くの人が訪れる有名店でした。
しかし大正・昭和・平成と歴史を刻み、惜しまれながら閉店。
その後20年以上の時を経て観光拠点として復活し、新たな歴史を『銀水』は歩みはじめました。
湧き水のおいしさを存分に生かした蜜で作る『かんざらし』と、大正時代から受け継がれる趣きを求め、多くの人が訪れる銀水。
現在、この場所でかんざらしを提供しているのが株式会社玉乃舎です。
今回、代表の稲田智久さんに『銀水』や『かんざらし』、そして島原の魅力についてお話を伺いました。
島原を離れて気付いた 湧き水とかんざらしの魅力
― 『かんざらし』とは何か、教えてください
『かんざらし」は、古くから島原市一帯で作られてきた団子に甘い蜜をかけた伝統スイーツです。
島原は澄んだ水がいたるところから湧き出ています。その水を利用し、夏に腐りやすい米粉を団子にして湧水のなかで保存する習慣が生まれました。
その冷やした団子に砂糖で作った蜜をかけ、夏の来客をもてなしたことが「かんざらし」の発祥といわれています。
上品な甘さと喉越しのよさが特徴で、作る家庭や店によって団子の大きさや蜜の作り方が異なるため、「かんざらし」と言ってもその味わいは実に多彩です。
― なぜ『かんざらし』に着目したのでしょうか?
就職で島原を離れたことで、地元ならではのものに対する愛着が深まりました。
島原と言えば『そうめん』が有名で、県外でもよく話題に上がります。しかし、話が進むうちに「そういえば、かんざらしってありますよね」と聞かれることが何度もありました。
かんざらしって自分たちのまわりに当たり前にあって、素朴でシンプルすぎて特徴がないと思っていたんです。
ところが県外の方と話す中で「意外とかんざらしって皆さんの心の中にあるんだな」と感じることが増えました。
外に出たことで、古くからある『かんざらし』が人の心に響く存在で、島原を象徴するものということに気づいたんです。
だからこそ、全国の人たちへ『かんざらし』の魅力を伝えられるような事業に取り組みたいと思うようになりました。
かんざらしのお土産化は世界初!元銀行員が実現した商品
― かんざらしを開発する上で、難しいなと感じたことはありましたか?
かんざらしは日持ちがせず、島原に行かないと食べられないという欠点がありました。それをお土産として持ち帰ることができ、かつ美味しく食べられる状態にするのは一筋縄ではいきません。
私は元々銀行員でお菓子づくりに関わったことがなかったのですが、多くの方に助力いただき、1年半かけて思い描いていた“常温ですぐに食べられて、日持ちがするかんざらし”が完成しました。
多くの方に協力していただけたのは、「これまでなかった『かんざらし』の商品を作りたい!」と、行政や商工会をはじめとする機関に伝え続けたからだと思います。
かんざらしの将来性に注目したビジネスプランに共感していただき、県の工業技術センターの皆さんと一緒に開発を進め、実現することができました。
商品が完成すると島原以外の方も食べる機会が増え、リピーターの方がネットで購入してくださるなど、どんどん広がっていきました。
また、私たちが各県の催事場でかんざらしを紹介することで、島原自体に興味を持ってくださる方も増えました。
かんざらしを食べてもらうだけでなく、やはりこの町に来てもらうことが最大の目標だったので、それが実現に向かい嬉しく感じています。
素朴なのに心を打つ 素材を活かした玉乃舎のかんざらし
― まだまだ知らない人も多い、かんざらしの魅力とは
私は元々が銀行員なので「お菓子を売る」となっても、通常なら見向きもされないですよね。
でも、かんざらしには不思議な魅力があって、多くの方が興味を持って話を聞いてくださいます。この西の果ての水の都、島原にしかないという部分が大きいのだと思います。
とくに九州外だと「かんざらしを知らなかった」と言われることも頻繁です。
実際に食べていただくと「素朴な味だけれど、懐かしくて特別感がある」と感動され、テレビなどのメディアでも取り上げていただく機会も増えました。
― 玉乃舎が作るかんざらしの特徴について教えてください
味や食感については悩みましたが「せっかくなら湧き水の美味しさを存分に活かしたい!」と、すっきりとした甘さの蜜を目指しました。
何度も改良を重ねた結果、『水のうまみを大切にした、最後まで飲み干せる蜜』に仕上げることができました。
白玉は、生産量は限られますが機械に頼らず、手作業で丸めています。小ぶりでもちもちとした白玉は、上品な甘さの蜜によく絡み、幅広い年代に支持されています。
原料は、当社では地元産のもち米と蜂蜜を使用しています。
かんざらしを作り始めた時は、島原産の業務用もち米はありませんでした。各家庭で食べる分の少量のもち米しか作られておらず、それらを各農家さんから少しずつ分けていただき『寒ざらし粉』に加工して作っていました。
かんざらし用の需要が増え、年を追うごとにもち米畑も拡大。現在では、業務用として約4トンのもち米を農家の方々に生産を依頼しています。
かんざらしの蜜を作るために欠かせないのは、島原のハゼの木から採れるハゼ蜜です。この蜜は湧水と相性が良く、さっぱりとした味に仕上げてくれます。
実はこのハゼの木も島原の歴史に由来しています。島原の乱後、幕府が今の電気の代わりになるろうそくを作るため、ハゼの木を多く植えました。
そのため、島原には多くのハゼの木が育ち、現在も数件の農家さんがその蜜を採取しています。
島原の歴史を感じるハゼ蜜を使用していることも、玉乃舎かんざらしのこだわりのひとつです。
かんざらしを活用した事業を思い描いた当初から、この地域の魅力を活かし町の賑わいを増やしたいという思いがありました。
今では多くの農家さんにご協力いただき、島原産のかんざらしを作ることができています。
それらの活動がまちの活性化にも繋がり、その輪が広がっていくのを実感できることが、毎日のやりがいに繋がっています。
ドラマ『かんざらしに恋して』の舞台にもなった銀水
― ドラマにもなったこの場所『銀水』について教えてください
2019年に放送されたドラマ『かんざらしに恋して』は、銀水がモデルとなっています。
店内は昔懐かしい雰囲気で、縁側の席では浜の川湧水前で島原の歴史を感じつつ、かんざらしを楽しむことができる場所です。
浜の川湧水は数ある湧水の中でも、4つの区画に区切られた洗い場がある珍しい形状です。区切れらた水場は食料品、食器と各用途によって順々に利用していく生活に根付いた仕組みになっています。
現在もそのルールを守りながら、地元の方が使用しており、ここならではの穏やかな空気感は特別です。
当社がかんざらしの事業をスタートさせたのは約10年前、島原の魅力と相まって業績は順調に伸びていました。
それを見た行政もかんざらしの秘めたポテンシャルに気づいたのだと思います。
島原では昔から“かんざらし=銀水”として親しまれていたため、行政が空き家となっていたここを買い取り『銀水』が復活しました。
令和3年4月から島原市の指定管理業務委託を受け、銀水で玉乃舎のかんざらしを提供。今ではこの場所が島原の観光拠点のひとつとなり、多くの人々で賑わっています。
― 今後のかんざらし、どのように変化していくと思いますか?
商品は日持ちがするように改良を重ねてはいますが、現状の賞味期限は約10日です。これをもっと長くできれば、国内だけでなく世界中に「かんざらし」を広めていくことができると考えています。
観光に訪れる海外の方々が一番驚かれるのが、島原の湧き水がある風景です。
世界には蛇口から出た水すら飲めない国もありますが、湧き水が生活の一部になっていて飲用できるというのは、世界中を見渡してもなかなかないはずです。
その湧き水で作ったスイーツは水の美味しさを活かしシンプルな味わい。だからこそ、世界中の方々にこの美味しさを受け入れてもらえると思っています。
これからの夢はかんざらしをきっかけに、世界中の人々に九州・長崎にある島原を知ってもらうことです。ここにしかない魅力はきっと世界にも届くと信じています。